堤より巡る-蛍と共存する里山-
松橋求道
「蛍と共存する里山」
堤より巡る私の住む、静岡県静岡市清水区は、かつて多くの田畑があり、その周りを蛍が飛び回っていたという。しかし、今では道路の建設や住宅地化が進み、その光景を想像すらできない状態となっている。そんな中でも、蛍が残された場所である山原堤周辺に、人と自然の関係を再構築する建築を提案する。
「ため池を基点とした循環作り」
ため池の水を使って作られた農作物の一部が、再びため池に還る循環を作ることで、池と農地の結びつきを強められると考えた。そこで、本計画ではため池で魚の養殖を行うことを提案する。それに加え、農作物の加工も傍で行う。加工時になり消化され、排泄されることで水を豊かにする。そして、その水が再び農地を潤す循環ができる。また、養殖による水の富栄養化を防ぐ意味でも外来種の駆除を行っていく。これにより、ため池が在来種に対し新たな生息環境として開かれ、かつての水路と自然の関係がこの場所に構築されるのではないだろうか。いつかこの池にも蛍が棲みつくことを期待している。
「生まれる新たな風景」
魚の養殖場と農作物の加工場の対岸には、この場所で生み出されたものを楽しめるレストランが作られる。この場所に人の流れが生まれ、この場所に興味を持ってくれた人たちに向け、アグリツーリズムが企画されたり、放置されてしまっている農場を整備した市民農園が生まれたりといった、新たな活動が展開される。さらに、堤を降りた先には短期滞在が可能な小屋などが建てられていき、新たな風景が生まれる。この場所で構築された人間と自然の関係は、人々に開かれた形で継続されていく。