ダム貯水池に沈んだ都市の記憶
優秀賞

ダム貯水池に沈んだ都市の記憶

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塩澤侑杜

ダム貯水池に沈んだ都市の記憶

塩澤侑杜

ダム建設により水没した都市の過去を、空間を介して感じることで、当時の記憶に触れることの出来る建築を提案する。

計画地八ツ場ダムの水没区域は、国の名勝に指定され、当時は約470世帯が暮らし、温泉街としても賑わいを見せていた。首都圏の水道水利用・河川反乱防止を主目的として計画され、賛成派と反対派の約70年間にも及ぶ論争の末、完成した。本計画の建築の方向性は、当時街のシンボルだった建物の方向性を示し、建築全体を傾きが異なる2枚の壁と寸法が異なる階段で構成した。様々な空間的操作を施し、土木的スケールから建築的スケールへ徐々に変化していく中で、人が知覚することが出来る情報量の割合が、貯水池の中へと風景が移りかわっていく。満水時と渇水時では、動線距離が変化し、満水時には歩行可能な場が制限されるといった、天候やダム稼働率により、空間性に変化が生まれる。

建築的機能や用途は与えず、訪れた人の感情へ訴えかける内省的建築を目指した。制作テーマについて現在観光事業化が促進する八ツ場ダムの背景には、生態系を含め多くの犠牲がある。ダムにより、私たちの生活が補償されているのは事実だが、突如故郷が沈み、先祖から受け継いできた地で暮らす人々の、悲痛な思いを想像すると胸が苦しくなった。構想当初から「記憶の継承」が前提にあり、ダム事業の肯定や否定を促すことは目的ではなかった。時代の流れに伴い、当時の記憶が風化していく中で、本提案を通じ、今一度ダムの正否を問いたい。