思想を嗣ぐ
えんつりー賞

思想を嗣ぐInspire thought

Name:
滝内裕大
Takiuchi Yudai

思想を嗣ぐ

滝内裕大

法多沢川によって作られた谷状のこの地は、豊かな自然に囲まれ、約1300年も前から法多山尊永寺が山に埋もれるようにひっそりと存在してきた。正月には初詣や厄除け団子を求め、多くの人で賑わうが、普段はあまり人が居らず、四季を色濃く表現する自然を纏い静寂な佇まいをしている。この様子を見る人が見れば、嘗ては人々が賑わい、活気が溢れる由緒正しい歴史的門前町が寂れたかのように見えるかも知れない。しかし決してそうではない。それは、江戸時代の絵巻や大正、明治、昭和の地図からでもわかる。行基がこの地に法多山を開山した約1300年も前からこの姿なのである。この静寂な姿こそが、尊永寺で長く受け継がれてきた密教の思想を体現している。そこで私は、この地の「再生」でも「賑わい」でもなく、「存続」を選んだ。普段見落としてしまう自然を人間の五感に訴えかけ、自然へ感覚を向け、密教を知らない人にも感覚的に密教と通じ合えるような参道を設計した。

教員講評

この敷地は難しい。法多山という歴史ある寺院がどのような存在で現在の状況はどうなのか。これらに対しての毅然たる視座が必要である。通常はどのように賑わいを生み出すか考えるところを、滝内君は法多山の教えである真言宗の自然への向き合い方に注目した。このひっそりとした山深い自然へのさまざまな向き合い方を、空間体験という方法で唯一無二のものとする。結果として宿泊も含めてこの経験は人々を誘い込むことになり、法多山の精神を借りて新たな価値を生み出す。そのような力を持てるのが建築の喜びなのだ。(田井)