のぼる・くだる・もぐる
稲葉洋人
本設計は若い世代を中心に幅広い年齢層の地域住民が、日常生活の中で彫刻に触れ、学習できる場所として計画した。館内にはカフェや公園機能を設け、誰もが気軽に利用でき、地域交流も図れる場所にし、利用者に居心地がいいと感じてもらい、生活の一部になるような空間を目指した。展示は抽象彫刻の多いヘンリー・ムーアの作品。彼は「彫刻は野外の芸術である」とした。そこで彫刻作品を野外でも室内でも自然を背景にして眺めることができるような展示室を計画、また自然、彫刻、建築が一体となるよう計画した。敷地と建物の屋根になだらかな勾配を付けて、敷地全体が丘陵のようなランドスケープになるように配置した。坂をのぼったり、くだったりする移動の中で彫刻を様々な角度から見ることができる。その移動のなかで驚きや新たな発見を生み出せるだろう。
教員講評
駅前広場という敷地条件に対し、極めてうまく応えている案だと感じる。美術館ではあるが、近隣住民にとっては、通勤通学、買物などの日常の活動に対して、気軽に寄れる自由さが必要だ。この案は建物自体が斜面状の広場として開かれていることによって、それを解決した。さらに、動線計画は巧みで、ほぼ一筆書きで、すべての展示室をぐるりと回遊でき、その中に周辺に開かれたり閉じたり、内部があったり外部があったり、実に多様で豊かな空間体験を生み出している。(田井)