[2021]Postscript

えんつりー(建築学科棟)のエントランスホール、エレベーター脇に時折学生達が群がっているのを見るようになりました。彼らの視線の先にはA_SIST|2020のポスターが貼られた壁があります。設計課題に頭を悩ませた彼らは、先輩たちの優秀作品が掲載されたこのポスターを見ることで、打開策を見つけたり、先輩に負けない案にしようと対抗心を奮い立たせているのです。誰に言われるでもなく、設計作業の手助けとして先輩の作品を読み込み、より良い成果を導き出そうとする姿勢がそこにはあります。単純に大学らしい、良い風景だなあ、と思うのです。

ようやく4年間が過ぎ、全学年の作品を一堂に示すことができるようになった生まれたての学科です。本学の建築教育とはなんなのだろう、この時代にあえて生まれた若い建築学科ができることはなんなのか、よく考えさせられます。そんな中で分かりやすいことは、歴史が始まる最初の点にいるということです。先輩のいない1期生から、先輩学年が1年ずつ増えていくというのは、最初の4年間にしかない始まりの一瞬なのです。現時点では下の学年ほど、先輩の層は厚くなり、否が応でも他学年の影響を受けるようになっていく過程を見ている事になります。
誤解を恐れずに言うのなら、設計の授業は自主性に依存していると言えます。何かから盗むのです。もちろん、読書や作品集の閲覧も重要ですが、一番身近な先輩からの知恵の拝借は、何よりも大きな存在だと、私自身の経験からもいうことができます。それが故に、大学によって色がつくといわれるのでしょう。それは言い換えれば、知を引き継いでいるともいえるでしょう。
論文梗概冊子は全研究室の研究内容を俯瞰するのにはとても良くできた媒体です。学生たちにはもちろんのこと、教員も研究室を超えて、建築学科での研究対象を一気に俯瞰し参考にできるのです。通常は研究室内での細い線での知の継続が、学科という太いパイプに束ねられた象徴です。

さて、2021年度版もここに多くの人々の協力を得て発刊することができました。協賛企業の方々の、本学科に寄せる期待には感謝しかありません。本学法人も昨年度のアニュアル(作品・論文年鑑)の成果を認めていただき、本年度への資金協力をいただけたことには、学生たちの社会での活躍によって応えるしかありません。
そして、制作に関わって頂いた編集者、デザイナーの方々の親身で温かく、時に厳しいご指導には、「建築」が多くの人々の協力によってしか成し得ない事実と近い感覚を得ることができ、いつも嬉しく感じています。協力学生の頑張りには頼もしさを感じました。制作協力者のプロの世界に投げ込まれ、授業以上の学修が出来たことでしょう。

ほとんど設計課題の内容は変わっていませんが、こうして紙媒体としてまとめて見比べると、全く違う回答の出し方に改めて気付かされます。また、卒業設計は明らかに迫力が増したように感じます。卒業設計はそれこそ先輩の手伝いを通じて多くのことを学ぶわけですが、昨年度の作品には参照する先輩がいなかったのです。今年度の作品は多分に先輩のエキスを吸収して爆発させた結果なのでしょう。その系譜を探るという見方もお薦めします。

大学の重要な意義として、知をアーカイブすることがあります。アーカイブとは蓄積です。通常、研究室ごとで行われる蓄積に対し、研究室を超えて学科としてできる媒体がこのアニュアルになります。知を繋ぐバトンとして、2年目の作品・論文がどのように成長したかご覧ください。

[田井幹夫]