[2020]Postscript
アニュアルの発刊にあたって
2017年4月に開設された建築学科も4年度目を終え、教育研究の集大成として、卒業研究、卒業設計が提出されました。ここに建築学科の研究、作品アニュアルの第1号を発刊します。建築学科の教育研究成果を学内外に発信するツールであり、A1判「ペーパー」とA4判「ブックレット」をパッケージした印刷物と、ウェブサイトの2大情報媒体から成ります。印刷物は厳選した研究や作品を見せるひとつのプレゼンテーションとしての性格をもちます。一方、ウェブサイトは主要研究と設計作品をすべて掲載するアーカイブとして機能させることを目論みました。
「ブックレット」は、卒業研究の優秀論文を各研究室の教員がセレクトし、その梗概をまとめた冊子です。建築構造分野、建築材料・施工分野、建築環境・設備分野、計画・意匠分野に属する9つの研究室からそれぞれ選抜しており、多岐に渡る研究の広さ、深さ、そして面白さを垣間見ることができます。たとえば、構造分野ではアスペクト比、無補強組積造壁、柱RC梁S架構、インターロッキング機構など、材料・施工分野では、コンクリートの乾燥収縮、高流動性コンクリートなど、環境・設備分野では学習環境、着衣量推計、一次エネルギー消費量、再生可能エネルギーなど、意匠・計画分野ではスマートシティ、リノベーションまちづくり、道の駅、無人駅舎の利活用など、研究テーマは多岐に渡っています。
「ペーパー」は、卒業設計をはじめとした、設計演習の優秀作品を紹介したシートです。A1用紙を折り畳んだもので、ページをめくりながら見られますが、拡げるとプレゼンシートのように掲示できる2ウェイの見方、読み方ができます。最優秀賞である「えんつりー賞」、教員が推した「個人賞」、奨励賞の「えんがわ賞」まで、審査会や講評会で選出された作品を掲載しています。
設計演習は、1年後期の「トレース」、「5.4mキューブ」から始まり、2年前期の「住宅」、「ギャラリー」、2年後期の「キャンパスの居場所」、「図書館」、3年前期の「集合住宅」、「学校」、3年後期の「地域コミュニティ施設」まで、規模的にも社会的にも大型化、複雑化し、学年毎に徐々に都市的な視点が求められます。各課題は、単にビルディングタイプを学修するのではなく、社会が抱える課題を建築としてどのように解決できるかに主眼を置いて
います。4年後期の卒業設計では各自が設定した敷地・規模・用途のもと、学部最後の設計に挑むことになります。
設計演習では、最優秀賞の名称を「えんつりー賞」としていますが、「えんつりー(enTree)」とは、静岡理工科大学理工学部建築学科の建物(2017年3月竣工)の愛称です。学生が入学し、社会に羽ばたいていくことを表すentry、建物の空間コンセプトである学生・教員・地域の人々が交流する縁側engawa、構造的な機能を視覚化した樹状柱treeを組み合わせて名付けられました。
コロナ禍でリアル/バーチャルな空間の可能性が論じられていますが、奇しくもリアル/バーチャルのそれぞれの特性を活かしてつくられた本アニュアルから、本学建築学科の教育研究をご体感下さい。
[脇坂圭一]