2023.12.12

20231211読書ゼミ、エドワード・レルフ「場所の現象学」

三年生の梅田怜緒君の主担当で読書ゼミを行いました。

採用書籍は、エドワード・レルフの「場所の現象学」です。

人間の経験と場所の関係、ハイデガーによる「場所は・・・人間を位置付ける」の意味、没場所性の問題、実存空間ないし生きられた世界または空間、ニーチェによる場所のセンス、ノルベルグ・シュルツによる幾何学の抽象空間、アインシュタインによる場所の概念、ディズニー化とキッチュまたは逃避の場所、などなど各自がレビューを持ちより、全員で意見を述べ合い、「場所」について理解を深めました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

以下、私のレビューです。

「場所の現象学(Place and Placelessness)」1991(1976) レビュー

2023/12/11 脇坂圭一

イー・フー・トゥアン「空間の経験―身体から都市へ(Space and Place)」1988(1977)と同時期に刊行された場所論の双璧の一つ。

計量モデルによって客観的にアプローチする地理学の潮流に対して、「人間主義地理学(humanic geography)」を標榜し、その手法として「現象学的」アプローチをとることで、人間が経験する場所、つまり生きられた場所を、意味づけ、そして実践するかを問う。「場所」と「没場所性」、あるいは「場所」と「空間」を巡る議論は常に「人間」を焦点として展開される。

「場所は・・・人間を位置付ける」「空間はその存在を場所から受け取る」(ハイデガー)を始め、「人間の生活は、意味と形態と構造をもつ場所のシステムを必要とする」(ノルベルグ・シュルツ)、「場所をつくることは世界の秩序づけである」(ラパポート)、「カオスの中には場所は存在しない」(シェラー)、「連続した場面と経験される実存空間」(カレン)、「人間を場所から切り離して理解することはできない」(マンセル)、「空間の概念化の前に心理的にもって単純な場所の概念がある」(アインシュタイン)など、地理学から哲学、建築論、都市論、現象学ほか、他領域からの言説を丁寧かつ広範に拾い上げ、自らの論を展開する態度は極めて研究的である。

 「没場所性が優勢になっている」という危機感が突き動かしたであろうレルフの警鐘は、現代においてますます深刻になっている。「アイデンティティのない場所は存在しない」というレルフの言葉に反して、生きられた場所たる商店街から賑わいが薄れていき、フラットスケープとしての郊外大型商業施設に人が集まる現象をどう解釈すれば良いか。後者には、「ゲニウス・ロキ(土地の気風)」など存在しないし、最たる現象が「ディズニー化」だろう。これを「ユートピア」と言えるのか、否、それは単なる「ファンタジー」である。しかし、だからといって、無味乾燥な「サブトピア」が受け入れられる訳ではない。

 「没場所」的世界に陥らないための責任が問われている。そのためには、「場所のセンス」を見逃さない個人のセンス(感覚)と、一方で個人の経験として自律的な物語にとどまらせない他律的な論理を合わせ持つ必要がある。強大な経済と標準化と画一化を求めようとする公共の権力に立ち向かう武器を持ち、しなやかに、毅然とした意思を持って、生きられた場所を守り、創造していくことが求められている。