【レビュー】建築設計B1 第一課題 最終講評会|「水辺の建築」
こんにちは、脇坂研究室M2の伊藤勢来です。
2026年度 建築設計B1の第一課題「水辺の建築」最終講評会が、5月19日に開催されました。TAとして関わってきた課題のひとつの節目として、今回はその様子をお伝えします。
課題について
敷地は静岡県浜松市浜名区三ヶ日町・元瀬戸港周辺。奥浜名湖の北側に位置するこの場所に、「道の駅」を設計するという課題です。4月14日の課題説明から約5週間、敷地調査・事例調査・エスキスを重ねて迎えた講評会には、16名の学生が作品を提出しました。
受賞作品のご紹介
えんつりー賞|成瀬 玲那「満たす水と光」
養蜂場の蜜蝋を原料とするキャンドルと浜名湖の潮の満ち引きを組み合わせた道の駅の設計です。南側敷地を210mm掘り下げて満潮時に水が入る水景公園とし、夜はキャンドルの光が水面に反射する空間を演出。東側に蜂の観察教室を設け、山の稜線になじむ三角形の屋根で全体を構成しています。「水辺」という課題に対して、もっとも深く向き合った提案だと感じました。
長尾賞|渥美 太雅「混和」
エスキスの段階から一貫して「混和」というコンセプトを持ち続けていた渥美くん。浜名湖沿いの自然公園内に、地域住民と観光客、北側と南側の環境が交わる施設を設計しました。直売所・体験教室・飲食店・ツーリング交流センターを配置し、屋根を連ねることで建物内外に人の交流が生まれる構成とし、公園・湖・森を眺められるよう各棟の向きと高さを操作しています。コンセプトと形態が最後まで結びついていた点を評価したいです。エスキスのときにアドバイスした「混ざり合う」体験が、最終案でどこまで実現できたかが気になるところでした。
長谷川賞|川畑 美友「滲景」
海水と淡水が混ざり合う浜名湖の汽水環境をテーマに、環境のにじみを建築に落とし込んだ提案です。塩の結晶構造から導いたモジュールをスパンの設計ルールとし、風向きに応じた壁の配置と幕状の屋根を組み合わせることで、内外の環境が連続的に滲み合う空間を提案しました。エスキスの頃と比べて、アンジュレーションを作り軒を身体スケールまで落とす操作が確実に良くなっており、三角形で細長い敷地を分割する解き方も巧みで、水辺の風景の作り方という点では今回の中でも際立っていた提案です。掘り込んだ水の立ち上がり処理や勾配のルールなど細部に課題は残りつつも、模型の完成度の高さも含めて説得力がありました。
脇坂賞|古橋 美優「未完の循環」
廃棄される青みかんの皮や深茎の殻など地域の捨てられる素材を新たな建築素材として活用する循環をテーマに、山から湖へスロープ状に降りながら直売所・オープンキッチン・屋上カフェ・マテリアルラボ・ワークショップを一筆書きのように巡れる道の駅を設計しました。空間の形のバランスに美しさとセンスを感じる一方で、コンセプトと空間体験がきちんと一致していた点で完成度が高かったです。
田井賞|松浦 悠貴「大地の建築-数百年朽ちた先に-」
「建築とは形が受け継がれ続けるもの」と捉え、数百年後も大地として残り続けるスペースの設計を試みた案です。コンクリートの楕円形空間で音を楽しむ場、子午線自転車道に沿ったアーケード、旅の締めに立ち寄る温泉を配置し、湖から山へと連続するシークエンスを意識して全体を構成しています。「数百年後も大地として残り続ける」という時間軸の設定が、ほかの案にはないスケール感を持っていました。大地と建築の関係をもう一段言語化できれば、さらに強い提案になったと思います。
えんがわ賞|杉山 秀響「なみのテラス」
強い日差しを大屋根で遮り、その下に小屋根を設けることで室内感覚を保ちながら風を取り込む水辺の空間を作る提案です。小屋根へも登れるよう上下の動線を確保し、平面的にも視界の抜けや内外誘導の流れを複数設けることで、平面と立体の両方向に自由な動きを生み出しています。柱を排しスラブで穏やかな波を表現し、建物間の景色と各開口から開放感を引き出す構成は、水辺の風景の作り方として模型の完成度とともに非常に高く評価できました。大波・小波を大屋根・小屋根に建築化した発想をもう一段使いこなせればさらに面白い提案になったと思います。
えんがわ賞|山本 佳奈「湖畔-人と景色を結ぶ道の駅-」
湖の形態を建物に取り込み、利用者が自然を感じながら過ごせる空間を目指した提案です。多角形の屋根が生み出す半屋外空間に直売所・飲食店・バーベキュースペースを配置し、断面にも勾配をつけることで空と水の連続性を演出。車・自転車・バイクが建物の間を通り抜けられる動線を設けるなど、人の動きと景色の関係をよく考えていました。屋根が生み出す内と外への関心は良いだけに、屋根に合わせて壁を自由に立てるか屋根を完全に浮かせて入れ子形式にするかのどちらかに振り切ることで、さらに空間が豊かになるはずです。
えんがわ賞|山口 來輝「風景の途中とは」
風景とは視覚的なものではなく、身体が場所に居続けることで蓄積される時間だという捉え方が、今回の課題の中でも独自の視点として光っていました。かつてあった山の記憶を建築として立ち上げるというコンセプトのもと、柱の素材をコンクリート・木・鉄等で変えながら空間の質を操作し、人・動物・自然それぞれのスケールに応じた高さや水平面を設計しています。山の断面や地層といった自分の意思の外にある要素に形の決定を委ねながら建築を立ち上げようとする姿勢には可能性を感じるだけに、模型の作り間違いによって地形の意図が伝わりにくくなってしまったのは惜しかった。フィクションでも構わないので、大地と建築の関係の面白さをもう一段言語化・空間化できればさらに評価できる案になったと思います。
レビュー
今回の講評会を通じて感じたのは、「敷地と向き合う姿勢」はできてきている一方で、「誰のための建築か」という問いがまだ弱い案が多かったということです。浜名湖という魅力的な場所を前に、形や素材の操作に夢中になるあまり、そこに来る人のことが後回しになってしまっている。平日と休日で来る人が変わる、地域住民と観光客では求めるものが違う、そういった視点が空間の作り方に滲み出てくると、道の駅としての説得力が一気に増すはずです。
また、コンセプトと形態が最後まで結びついていた案とそうでない案の差が、今回はっきり見えました。「混和」「循環」「滲景」など、言葉としては強いコンセプトを持っていても、それが模型や図面の中で空間体験として現れていないと、どこかふわっとした印象で終わってしまう。逆に、受賞作品に共通していたのは、コンセプトが動線・断面・素材のどこかに必ず形として落ちていたことだと思います。
エスキスの段階で何度も「まずスケッチや言葉として残しておいて」と伝えてきましたが、最終案を見ると、初期の直感を大切にしながら深めていけた学生とそうでない学生の差も感じました。第一印象は後になって大切な手がかりになる。それは自分自身の設計経験からも確かにそう思います。
建築設計の授業の醍醐味は、正解のない問いに自分なりの答えを出すことだと思っています。第二課題では、「小中一貫校」の設計になります。形から入るのではなく、場所と人から考える習慣をぜひ身につけてほしいです。
どんな提案が出てくるか、楽しみにです。
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