【レポート】垣野義典教授オンラインレクチャー「The Silent Effect of Learning Spaces | Beyond Borders of Japan」
こんにちは、脇坂研究室修士2年伊藤勢来です。
建築設計B1の第2課題「小中一貫校」に関連して、2026年6月16日(火)、東京理科大学創域理工学部の垣野義典教授によるオンラインレクチャーが開催されました。垣野先生は学校建築の研究者として、フィンランド・アアルト大学やオランダ・デルフト工科大学での客員研究員を経て、現在も国内外の学校建築における子どもたちの行動と空間の関係を研究されています。当日は三木市教育委員会、牧之原市役所からもオンラインでのご参加があり、行政関係者を交えた充実したディスカッションとなりました。
レクチャー:空間が子どもたちのアクティビティを「静かに」変える
レクチャーの冒頭、垣野先生はウィーンの学校の動画を紹介しながら、自らのフィールドワークの方法を説明されました。実測、家具のレイアウト調査、子どもたちの動線記録。そこから次の設計へとつなげていくアプローチが研究の核にあります。
日本の学校についても、2022年に文科省が示した「これからの教室」の方向性である正面黒板のない配置、多様な集まり方、オープンスペースとの連動が、実際の学校でいま実現しつつあることが紹介されました。子どもたちが床に模造紙を広げて作業し、コの字型のこもり空間に集まり、先生のいない時間に自発的に議論する、そんな光景が2026年の小学校の日常になっています。
特に印象的だった事例が、福岡県嘉麻市の稲築東義務教育学校です。2階全体を図書ゾーンとして開放し、特別教室への動線上にすべての本棚が配置されています。司書が子どもたちの動線を読み解きながら学年ごとに本の置き場を変え、学年や身長に合わせて棚の高さも使い分けています。「図書室」ではなく「図書ゾーン」として日常の通り道にむき出しであることで、子どもたちが偶然に本と、友達と、司書と出会う仕掛けがつくられていました。
オープンスペースの使われ方については、「育ちきっていない」場所が多いという現実も正直に語られました。幅が3,500mm程度だと動線に取られてしまい、家具が置けず何もない廊下と化してしまう。一方、角を持つ教室は担任の先生が「自分の場所」として使いやすく、最も活性化しやすいという研究結果も紹介されました。壁の雁行や柱の配置が、先生たちが空間を「自分たちのもの」として使いはじめるきっかけになる柱1本が子どもたちの動きを変えるという指摘は、設計者として強く刺さるものがありました。
質疑応答:現場とのすり合わせ、中学生の空間、そしてプロポーザル
質疑では、学生・行政・非常勤教員それぞれの立場から多様な問いが投げかけられました。
長谷川先生(非常勤)からは「中学生の空間はどうあるべきか」という問いが出されました。小学校と中学校は根本的に違うという話が印象的でした。小学生は床に近いところでの学習が多く、姿勢も動きも平面的。しかし6年生ごろを境に、椅子と机が主役になり、時間の質も変わってくる。中学生は「定点」をつくりながら動く奈義中学校の「多目的テラス」では、ロッカーを壁際ではなく真ん中に置くことで生まれた「絶妙に狭い」空間が休み時間の溜まり場になっていたという話も、具体的でイメージしやすいものでした。
学生の松浦くんからは、タブレット教育が広まる中で身体感覚が失われていることへの懸念が寄せられました。垣野先生は「ちょっとタブレット嫌な派」と率直に話しながら、建築が身体感覚の発達を促せるかどうかという問いを提示されました。プレーパーク(冒険遊び場)の事例や、ランドスケープと一体化した学校計画の話は、改めて建築の役割の大きさを感じさせるものでした。
三木市・牧之原市の行政担当者からは、オープンスペースの縄張り問題や、先生方との合意形成の難しさについて具体的な問いがありました。繰り返し語られていたのは、先生たちが空間を自分のものとして使いはじめるきっかけをどうつくるか、という点です。壁の出入りや柱の位置がそのガイドになること、そして4月の第1週に先生たち自身が家具を動かすワークショップを設けること。
説明や写真だけでは伝わらない、体験させることが重要だという言葉は印象に残りました。
感想
「静かなはたらき」というタイトルが、レクチャーを聞き終えて改めて腑に落ちました。空間は声高に何かを主張するわけではないけれど、そこにいる人の行動や関係を確実に変えている。動画を交えた事例の紹介は空間把握がしやすく、実際に訪れてみたい学校がいくつもありました。
今後、学生たちが小中一貫校のスタディを進めていく中で、今日お話しいただいた「空間が子どもたちの動きを誘発する」という視点を、TAとして一緒に考えていけたらと思っています。
垣野先生、貴重なお話をありがとうございました。




