こんにちは。梅雨に入ってからというもの、街全体がしっとりと落ち着いた空気に包まれています。どこか気分までトーンダウンしてしまいそうですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

今週の研究室ブログは、M2の稲葉が担当します。今回は、私の地元・静岡県富士市の再開発について、「リノベーションまちづくり」を研究している立場から考えてみたいと思います。

※再開発が行われる富士駅北口と駅前のビル群

富士駅前は、小中高と長く過ごしてきた私にとって、思い出の詰まった場所です。祇園祭でにぎわった夏の夜、友人と待ち合わせた駅前広場、放課後に立ち寄った商店街…。進学を機に地元を離れてからは訪れる機会も減りましたが、帰省のたびに富士駅に降り立つと、昭和の面影を残す駅前の街並みや工場、そして正面にそびえる富士山の風景に、「ああ、帰ってきたな」と郷愁を感じます。

そんな富士駅前で、2025年、ついに本格的な再開発が始まりました。私が小学生の頃からすでに「シャッター通り」と呼ばれ、大型商業施設の撤退や駅前広場の老朽化が問題となっていました。地元民にとっては、長年待ち望んでいた再開発のスタートといえるでしょう。

※再整備後の全体イメージ図　参照：富士市ホームページ　https://www.city.fuji.shizuoka.jp/1040250000/p003828.html

駅北口エリアでは、老朽化した商業ビルの解体がすでに始まり、新しい建物や広場の整備が進められています。富士駅北口駅前公益施設の設計には、㈱アール・アイ・エーと㈱マウントフジアーキテクツスタジオによる設計共同企業体が携わっており、新しい駅舎のデザインにも注目しています。

※富士駅北口駅前広場に整備予定の公益施設のイメージ　参照：富士市ホームページ　https://www.city.fuji.shizuoka.jp/1040250000/p003828.html

一方で、いくつか気になる点もあります。低層部に商業施設や公共施設、中高層部にオフィスやマンションが入る複合開発マンションは、まちづくりにおいて本当に正解なのでしょうか？今回の計画ではテラスが設けられる予定ですが、富士駅正面から富士山を望む貴重な眺望が、再開発によって建設予定の高層マンションや立体駐車場によって遮られてしまう可能性があることは、非常に残念です。富士山はこの地域の象徴であり、駅前という公共性の高い場所からその景観を楽しめることは、まちの魅力の一つです。

もちろん、商業施設や公共施設が充実することで、地域住民や観光客にとって便利な環境が整い、まちの賑わいを生み出す可能性もあります。しかし、それだけではどこにでもある駅前空間になってしまい、富士市ならではの個性が薄れてしまうのではないでしょうか。

だからこそ、富士市のアイデンティティを取り込み、唯一無二の駅前空間を創り出すことが求められていると思います。富士駅北口駅前広場と合わせて地域の歴史や文化を活かしたデザインを取り入れることで、利便性と魅力を両立させることができるかもしれません。この再開発が、単なる都市機能の向上だけでなく、富士市の魅力を最大限に活かしたものになることを期待したいと思います。

私の研究テーマである「リノベーションまちづくり」や「エリアリノベーション」は、新しい建物を建てること以上に、今ある建物や空間の“価値の再発見”と“意味の再構築”を大切にするアプローチです。全国各地では、使われなくなった空き家や商店街を、カフェやシェアスペース、地域の拠点として再生させる事例が数多く生まれています。

富士駅前の今回の再開発は、いわゆる大規模な“再整備”であり、リノベーション的なアプローチとは異なる面もあります。しかし、人が集まり、思い出が刻まれた空間をどう未来に引き継ぐかという問いに向き合うという点では、共通する部分も多いと感じています。

再開発をきっかけに、北口駅前の商店街や周辺エリアにも波及効果が生まれ、地域資源を活かしたリノベーションまちづくりへとつながっていくことを期待しています。

駅は単なる交通の結節点ではなく、人の記憶と日常が重なる特別な場所です。だからこそ、ただ新しくするのではなく、「生活の延長線上にある公共空間」として再生することが大切です。

これからの富士市は、富士駅を起点に、まちのあり方そのものが変わっていくかもしれません。その変化に期待しつつ、「リノベーションまちづくり」というもうひとつの視点から、その歩みを見守り、考え続けていきたいと思います。

変わりゆく風景のなかに、自分の記憶やまちの歴史がどう重なっていくのか。それを、研究と重ねながら、地元民として、これからも見つめていきたいです。

M2 稲葉