サンルームから考える、これからの中間領域

修士論文と設計を通して、私は「サンルーム」という空間の在り方を見つめ直している。
サンルームというと、かつては洗濯物を干す場所や、植物を育てる温室のような場所という印象が強いかもしれないが、少し歴史をたどると、その原型や意味の変化には、時代の住まい方や社会の価値観が密接に関わっていることが見えてくる。
◯住宅の高断熱化が進む中で
研究背景にあるのは、近年の住宅性能の高度化である。ZEHが義務化され、住宅はますます高気密高断熱化の方向へ進んでいる。
特にηAC値の観点からは、開口部を少なくするほど性能値が良くなるため、結果的に高気密化された「閉鎖型住宅」が増えている。
その一方で、日本の暮らしには、縁側や土間のような「中間領域」が長く存在しており、季節の変化を感じたり、隣人との距離をほどよくとったりする中間領域が、日本の住まいの豊かさを支えてきたのは周知の事実である。
住宅が性能を優先して閉じていく今だからこそ、「サンルーム」という存在が、縁側に変わるこれからの中間領域として再び見直されるべきではないかと考えた。
◯サンルームのはじまりと広がり
歴史を辿ると、ヨーロッパでは「コンサバトリー(conservatory)」という温室空間がサンルームの類似空間として見られる。
本来は南国から持ち帰った植物や果物を保存する場所として使用しつつ、夏季は人々が集う社交の場として使用されていた。
つまり、気候によって用途が変化する、柔軟な中間領域だったことが窺える。
その後日本では、特に寒冷地を中心に風除室が設けられ、外気を防ぎながらも光を取り込む環境的な中間領域として機能してきた。
要するにサンルームは、単なる中間領域ではなく、気候や生活文化に応じて柔軟に用途を変えることができる空間として使われてきたことがわかる。
◯現代のサンルームが示す傾向
一方、本研究にて全国のサンルーム事例を分析すると、地域や気候によってその設計意図が異なることが窺えた。
寒冷地では断熱や蓄熱などの環境的要素が設計者テキストによく現れ、内陸部ではそういった環境的要素は薄まり、どちらかと言えば、家族や近隣との関係を調整する「社会的な中間領域」としての性格が、比較的強く見受けられた。
また近年の住宅では、内部が一室空間化(ワンルーム化)していく傾向があり、サンルームと居間を仕切る壁がなくなりつつあり、サンルームに隣接する諸室の数も複数隣接される事例が増えてきた。
光が届く場所で家族が思い思いに過ごすような、より自由度の高い使われ方が増え、サンルームそのものが多様化していることも明らかになってきた。
◯「無目的な室」としての可能性
サンルームの大きな特徴は、その実「無目的さ」にあると考える。
設計者が想定した用途や機能がそのまま反映されるとは限らず、居住者が生活していく上で自分なりの使い方を見つけていく。
たとえば、リビングの延長としてくつろぐ人もいれば、植物を育てる人、物干し場や客間として使う人もいる。
サンルームは、用途を限定しないからこそ、そのユーティリティ性が暮らしの多様性を包み込む器となるのではないか。
◯これからのサンルームへ
これまでのサンルームは、どちらかといえば「機能的な付属空間」だったと思う。サンルームとは?と聞かれれば、物干し場を思い浮かべる人もいれば、読書コーナーや日向ぼっこの場所を思い浮かべる人もいたと思う。
これからのサンルームは、そういった「日々の営みから滲み出た活動を、優しく受け入れる空間」として認識されていくのではないかと考えています。
設計者は、その敷地に対し適切な環境条件や空間的性格を設定しながらも、用途はあえて居住者に委ねる。
そんな「あえて規定しない設計行為」が、これからの住宅におけるサンルームのあり方としてふさわしいのではないか。
◯おわりに
論文では、これまでのサンルームの形態と機能の変遷を整理し、現代住宅における位置づけを明らかにすることを目的としています。
そして設計では、その知見を踏まえながら、「中間領域をどう現代の住まいに再生できるか」という問いに対して空間的な応答を試みます。
性能を高めるだけでなく、人と環境、内と外、生活と自然を再び結び直すこと。
それをかたちにすることを今回の修士設計の目的としています。
M2 中川