2022.11.21 民家を見て思ったこと
夏頃に、山梨県の重要文化財である旧高野家住宅の見学をした時のお話をしたいと思います。
この高野家は、百姓を納める名主のもので甘草屋敷とも呼ばれ、調味料や薬用として用いられる甘草を幕府へ上納していました。
甘草は生薬などにはほとんど入っており、食品添加物でも甘草を使っているのだそうです。
1階部分では、棟持柱がとても印象的で、この柱たちによって空間が2つに区切られているように見え、構造体には領域をつくる力があるのではないかと感じました。
2階には養蚕をするための場所がありました。
蚕の幼虫は桑の木の葉を栄養源とし、成長すると繭で体を覆うそうです。
その幼虫をお湯の中に入れて、その後、糸車でひいて絹糸ができるそうです。
また、この民家の2階にある突き出した屋根は、養蚕を行う際に、風通しを良くするために設けられたそうです。
民家は、このような生業との関係を強く感じることができるところも魅力的な点だと思いました。
さらに、お話をしてくださった方は、夜に1階で寝ている際に、2階で蚕が桑の木の葉を食べるから、結構気になるとおっしゃっていました。
このように、養蚕の話は、メディアで耳にすることはあっても、直接見たことも聞いたこともなく、自分にとっては驚きの連続でした。
養蚕のように、言葉は知っていても、詳しくは知らない文化が現代には多くあると思います。
こういった文化を完全に人の心から消えさせないことが必要であり、何か建築でできることがあるのではないかと感じました。
建築形態・空間と生業で関係している部分では、この民家の地域性や空間としての魅力を感じました。
蚕のための突き出し屋根だけではなく、すのこ状になっている空間にも味わいがあり、生業としての要素がある結果、生まれた奥深さだと思います。
現代の住宅は生業との関わりが薄れ、地域とのつながりが薄くなっている気がしています。
民家のように、生業とのつながりをつくることで、その地域にあったあり方や魅力的な空間が生まれてくるのではないかと思いました。
大黒柱は、自然の風合いが残っており、とても魅力的でした。
触れたときの触感も重みを感じ、木そのままの触感に加えて、建物としての年齢も感じました。
この大黒柱が、魅力的なのは自然という木が生きた時間と共に、建物としての柱の歴史を感じることができるからだと思います。
妻壁は見せ貫となっており、漆喰も塗られ、魅力的でした。
この見せ貫は大工さんの遊び心でつくったそうで、当時の民家でも、遊び心を取り入れることをしていたことに驚きました。
また、当時、部材を作る際には、現代にあるような引いて削るかんなはなかったそうです。
そのため、斧のように振り下ろして使う手かんなで、1つ1つの木材を削っていたそうです。
この話を聞いたときに、現代では考えられないことだと思うと同時に、当時の大工さんの技術と苦労、ものづくりへの意気込みの強さを感じました。
現代では、技術が発展し、時代は流れ、当時と比べてできることも増え、苦労することも少なくなったと思います。
その中でも、当時の大工さんのように、遊び心も持ちつつ、技術も卓越しているようなものづくりへの姿勢は、ものづくりの根本として忘れてはならないのではないかと思いました。
また、民家の保存費用がかなり高く、市などに引き取って貰わないと保存し続けていくことが難しいというお話も聞きました。
今後は、このような貴重な遺産を残して保存する工夫も、必要になってくると感じ、後世に残す難しさと重要さを改めて感じました。
このように、民家は、現代までの長い歴史があり、その歴史の中で生まれた地域性やつながりがあります。
さらに、数十年では生まれることのない数百年という時間を積み重ねたことによる魅力的な空間があります。
こういった時間の重みが、民家をみる人々の心に突き刺さるのだと思いました。
田井幹夫研究室 院2年 池宮康清